「雑談」が実はとても重要な理由

職場の給水機の前で同僚と、あるいは学校のお迎えの列でほかの保護者と――私たちは日々どこかの場面で、似たような行動を取っています。多くの場合、「元気?」という何気ない問いかけから始まり、簡単な返事が返ってきて、相手にも同じ質問を投げかけ、そして次の話題へ― そんな流れです。いわゆる「雑談(small talk)」です。

こうした会話は、取るに足らないおしゃべり、あるいは少々面倒なやり取りと見なされがちですが、実は私たち個人にとっても、社会全体にとっても価値のある行為であることが、最近の研究から明らかになってきています。

イスタンブール (Istanbul) のサバンジ大学 (Sabanci University) で社会心理学 (Social Psychology) を研究するエスラ・アスジギル (Esra Ascigil) 氏は、一見たわいないこのような会話が、人と人との間にリスクの少ないつながりを生み出し、感情面での安定にも貢献し得ることを示しました。2023年11月に『社会心理学・人格科学(Social Psychological and Personality Science)』に発表された研究で、アスジギル氏とその同僚たちは、見知らぬ人と定期的に言葉を交わすことで、より大きな集団への帰属意識が芽生え、社会的な結びつきが強まる可能性があると指摘しています。

「個人レベルでは、見知らぬ人や顔見知りとの雑談がポジティブな感情や人生満足度を高める効果があります。集団レベルでは、地域社会に対する一体感の醸成にもつながります」とアスジギル氏はニュースメディア「Nice News」の取材に語っています。

彼女の研究は、これまでの知見にも支えられています。たとえば2014年の研究では、通勤中に電車やバスで近くに座った見知らぬ人と会話した人のほうが、その後、前向きな感情を報告する傾向が強いことが明らかになりました。

アスジギル氏によれば、人間は本質的に「社会的な動物」であり、集団に属したいという欲求を持っています。そして、たとえごく短く、些細に思えるようなやりとりであっても、その欲求を満たす一助になるのだといいます。

こうした「つながりの瞬間」は、郵便配達員とのひとことや、美容師の恋愛話を聞くひとときなど、日常のなかに何十回も存在しているかもしれません。心理学ではこれらの関係を「弱いつながり(weak-tie)」と呼びますが、親しい人々との強い絆と同じく、私たちや社会の健全さにとって重要な役割を果たしています。

そして、雑談は人間だけの特権ではないこともわかっています。2015年の研究では、ワオキツネザル(ring-tailed lemur)が物理的には離れていても感情的に近しい個体に対して、鳴き声を交わしていることが示されました。共著者のイペック・クラフチ (Ipek Kulahci) 氏はプリンストン大学 (Princeton University) のプレスリリースでこう語っています。「こうした鳴き声の選択的なやりとりは、人間が親しい友人や家族と定期的に連絡を取り合うのとよく似ています。」

つまり、雑談はただの沈黙を埋めるためのものではなく、私たちが他者と最も手軽につながる方法のひとつなのです――たとえ数分後には内容を忘れてしまっていても。アスジギル氏によれば、親しい人間関係に恵まれ、孤独を感じていない人であっても、見知らぬ人や知人との雑談から恩恵を受けられるといいます。

もちろん、過去の研究のなかには「信頼できる相手との深い会話」のほうが、「表面的なやりとり」よりも幸福感を高めるという結果もあります。しかし、社会的な充足感はゼロサム・ゲームではありません。深い会話にも浅い会話にも、それぞれ大切な役割があり、雑談のチャンスは日常のいたるところに転がっています。

「私たちは誰とでも雑談できますし、そうした機会は日々の生活にたくさんあります」とアスジギル氏は話します。「雑談は非常に手軽に、しかも頻繁に起こり得るため、その幸福効果も比較的得やすいのです。」

「やあ」「じゃあね」といった一言のやりとりは一瞬で終わってしまうかもしれませんが、アスジギル氏は、それが「社会的な潤滑油」として機能し、やがてはより深いつながりにつながる可能性があると指摘しています。

とはいえ、「雑談なんて退屈」と感じたり、「苦手で気が重い」と感じる人もいるでしょう。そんな人には、雑談がもたらす前向きな可能性に目を向けてみることを、アスジギル氏は勧めています。たとえば、新しい情報を得られたり、楽しいやりとりができたり、相手との関係が思いがけず深まったりするかもしれません。

さらに、彼女の研究では「人と話すことへの不安や恐れは、実際には根拠のないことが多い」とも示されています。「他人は私たちが思っている以上に、私たちとのつながりを求めているものです。そして、雑談は思っている以上に、私たちの気持ちを前向きにしてくれるのです。最初は緊張しても、続けていくうちに慣れて、だんだん楽になっていきますよ」とアスジギル氏は語り、こう付け加えました。

Source: Nice News