■建物価値を追う/資産活用に狙い定め再生/社会課題が事業好機に/収益を生む知恵で明暗
(住宅新報 2024年8月6日号)
空き家の増加が社会問題になっている中、総務省が今年4月末に発表した住宅・土地統計調査によれば、空き家の数は過去最高を更新し900万戸に達した。人口減少も止まらない。今年1月1日時点の日本の総人口は約1億2488万人となり、日本人の人口は15年連続で減少している。人が減っていく中で利活用や処分など資産のありようが問われている。東京を含めて全国的に切り捨てられる地域と生き残る地域が選別されることへの備えに向けて知恵を絞ることは待ったなしだ。
新規の住宅供給が過剰なうえに人の寿命よりも建物の寿命が長い住宅が増えていることを踏まえれば、「空き家がなくなることはない」というのは現実的な見方だ。
東京でもゴーストタウンが出てきても不思議はない。多世代で街そのものに住むことが街の活性化につながる。東京は開発ラッシュを迎えているが、その都市づくりは職・住近接がベースだ。どの再開発事業を見てもオフィスを中核に据えて商業施設やホテルを誘致する。不動産事業とは関係のない一般人から「金太郎アメのようだ」との表現を聞くことは珍しくない。
少子高齢社会が本格化している中で、良いも悪いも高齢者のペースに合わせた暮らしへの展開が求められている。街と住まいは高齢者への対処の仕方で評価される時代となり、商品ラインアップの選択肢を増やすことが求められる。若年層の視点と着想に追随した住まいを開発しても、その世代もいずれは高齢者に仲間入りする。住宅・不動産各社が人生のステージごとに間取りが変えられるなどの可変性をテーマに新規供給する背景には老いる日本社会に備えた知恵だ。家族構成も高度経済成長期とは全く異なり、専有面積の広さや間取りの考え方は一変している。ひと昔前の広ければよいというニーズではない。高齢社会の進展で、むしろ広さが負担になっているケースもある。専有面積が住宅の価値基準のバロメーターとは限らない。欧米のように「古い建物を使い続ける」というニーズも高まっていく。そのためには建物の価値を見いだす取り組みが欠かせない。使われなければ価値を生まない空き家と化す。
東京では珍しく戦前の長屋建物が多い東京都墨田区は築70年、80年といった築古建物への対応に苦慮する。こうした築古物件の再生を手掛ける(株)暇と梅爺(墨田区京島)は、取り壊さなければと諦めてしまうような建物を建て替えるような気持ちで改修しているという。ただ、リノベーション事業者らは震災の観点から新耐震基準に建て替えたい行政側とのせめぎ合いもある。既存活用、古民家を再生する可能性を応援する人と、実際にどこまで耐震補強工事に取り組んでいるか、耐火について取り組んでいるかが見えないため不安の声が上がったりもする。そこに対しては公開してどのような改修をしているのかを公開展示や公開イベントを行うなどで対応していくことが最も重要となる。
もっとも、全ての築古物件を新耐震基準に合わせようとすると、取り壊す道しかない物件も少なくない中で再生できる建物数は限られる。東京都や国交省、スタートアップ企業を巻き込んで共同して合意点を探り知恵を絞る必要がある。行政サイドとしては、築古建物の危険性を訴えて除去しようとしてきた開発DNAを持っている。既存活用で古い建物を生かすことを応援したいが、防災上の観点からもろ手を上げて賛同もできないジレンマも抱え、そこへの調整も古い建物をサステナブルに使うためには必要だ。
■全古協、専門家育成を急ぐ/ネクスウィル、難問に挑戦
そうした中で、全国古家再生推進協議会(全古協、大阪府)は、空き家の再生と空き家投資の専門家の育成に注力し、オンラインで受講できるシステムを運用する。認定資格として「古家再生士」と「古家再生プランナー」を設けている。リフォームや賃貸不動産、不動産投資の知識を習得した専門家だ。足元で再生士は32人、プランナーは1221人が認定を受けているという。協議会の会員数は現在およそ1万5000人で前年比30%超の増加となっている。
全古協の大熊重之理事長は、「空き家再生の市場規模(戸建て住宅)は60億円を想定している。築40~50年がボリュームゾーンだ。30年までに古家再生士を100人、古家再生プランナーを3000人まで増やしたい。空き家再生投資で空き家問題を解決していきたい」と話す。
全古協では、「空き家・古家物件見学ツアー」を全国を対象に定期的に開催し、物件の買い取り価格や想定家賃、リフォームの内容などを解説する。投資家と工務店をマッチングするイベントだ。これまでの成果としては、築40年以上の戸建て住宅で2000棟以上を再生し、収益化に成功しており、30年までに5000棟の再生をめざす。金沢市金石では約7000人の町で古い建物が多い保存地区を活性化させつつあるとする。
■複雑な権利調整も再生
ストックの再生はさまざまだ。共有持ち分、再建築不可物件、借地・底地、不動産事業者が引き受けたがらない案件もは少なくない。ネクスウィル(東京都港区)は、所有者不明土地や離婚の増加を背景にした不動産課題の解決をビジネスにつなげている。
同社代表取締役の丸岡智幸氏は、「年間120~130件の共有持ち分の不動産を買い取っているが、このうち空き家が70~80件を占めている。今期の共有持ち分の仕入れは200件を計画。売り上げ目標を30億円に置いており、このうち23億円が共有持ち分、約5億円が空き家、残り約2億円が通常の不動産仲介という展開になる」と話す。将来的には、買い取った物件をリノベして販売する事業も視野に入れている。
一つの不動産を2人以上で所有する共有持ち分の多くは相続や離婚がきっかけだとされるが、不動産を売却するには共有者全員の同意が必要。同社の案件では、東京都葛飾区内で不動産を売却したいが共有者がわからず連絡が取れない依頼を受けて一人ずつ所有者を探し出し、相談のうえで共有持ち分を順次購入して戸建てメーカーに売却できた。持ち分を集めて売却するまでに要した期間は11カ月という。
別のケースを見ると、10年前にDV(ドメスティック・バイオレンス)により離婚した夫との共有になっている不動産を手放したいという依頼だった。東京都東久留米市の案件で、まず37分の16を470万円で購入し残りの持ち分を買い取って更地にして同社が新築戸建て住宅を建築した。期間は15カ月間だった。
共有持ち分は権利関係をまとめるのに時間がかかる。このため事業の回転率を重視するとデベとビルダーなどに買い取ってもらい、その利益を次の持ち分案件に回すスタイルで展開する。今後の展開としては年内に福岡に支店を開設する予定だ。大阪や名古屋、東海など幅広く認知度を上げることも視野に置く。自治体とは空き家の流通促進を含めた業務提携を模索する。
ストック社会の資産価値を上げるための知恵が求められ、生かす建物と処分すべき建物の判断が迫られている。